REPORT
視聴者の皆さんが送ってくれた収録レポート!

----------------------------------

タシロアヤさんの
倉本美津留ライヴレポレポート
(98/07/10;大阪サンホール)

飛行機に乗ってまでライブを見に行きたいと思える人に、出逢えるなんて思ってもみなかった。
彼の音楽を追いかけている、賭けている自分が楽しいのではない。 逃したくない音がある。逃したくない言葉がある。 今、本当に、ワタシは倉本美津留の音楽に餓えている。 だから、行く。

1998年7月10日 大阪。
陽射しが強かった。雨が時折降っていた。 濡れたアスファルトの匂いが湿気と混ざりあって、歩く身体を駆け上がってきた。
気持ち悪かった。
けれど、そんなことはどうだって良かった。 どうだって良かったのだ。
本当に。

縦に長い、長方形のライブハウス。与えられた時間は30分強。 この短い時間でどんなステージを創ってくれるのだろうか、と、期待しながらストールに腰掛け、カルアミルクを飲みながら待つ。 スタンバイが整った21時過ぎにステージは始まった。 アコースティックギターの丸みを帯びた縁が、薄青いライトに染まる。 一曲目の「ドラゴンフライ」は前回のライブレポにも書いたとおり。 一番前の方に陣取って歌を聴いていたせいか、会場がしっとり、しっとりと、たった二本のギターの音色と倉本氏の歌声に包まれていくのが、背中で確かに感じられた。

氷になって動かなかった水の分子が、少しずつ溶けて動きを緩め、水滴に戻るように、「ドラゴンフライ」の一曲で、ふっ、と緊張感が無くなって、ライブハウス全体にとても優しい時間が訪れていたように思う。 MCを挟みながら「ダリダダ」「どこか」と、CD『しやわせ』に収録されている曲が続き、次は二回目のお披露目となる「るるるるる」という曲。 この曲がいい。ワタシには何となく、乾いた大地が目に浮かんで、小さな子供が古い古い低空飛行のプロペラ機を追いかけているような、そんな光景を思い出していた。

見たこともない風景。けれども「思い描く」のではなく、「思い出し」てしまう、そんな感覚を覚えさせてくれる曲。 デジャヴにも似た懐かしさが、とても暖かかった。

更に次の「壜 (びん) 」からは、ギターがもう一本増えて、3人での演奏に。
アコースティックギターが、3本。しかも、他の音は無し。 完全なる、暴挙。倉本氏も演奏前に笑いながら「暴挙です」と言い出す始末。 けれども、いざ始まってみればそれぞれに弾き方も音色も違っていて、驚くほどにしっかりと音が調和するのだ。
互いを邪魔することなく、混じりあう。
そして、気持ちの良い音になる。旋律になる。 技術と呼吸の為せる技に、思わず溜息が出た。 以前に聴いた「ひらめき」という曲も、また深みを増して聴こえてきて、涙腺に響いた。

いよいよ最後の曲「C幼笛」。
大好きな曲。
幼い自分に出逢って、大切な何かをその自分から手渡されるような気がする曲。「わすれもの、したでしょ。
だいじなもの、おとしてきたでしょ。
はい。
なくさないでね。だいじにもっててね。
でも、ポケットのおくにしまいこまないでね。 そしたらまた、まっくらなんだからね」
ワタシだけかも知れないが、なんとなくそういう子供の言葉が広がって、諌められているような気がする不思議な曲。 これもやはり、ギターの重なり合う音が魅力を倍増させていたように思う。 たった30分のライブ。
「ありがとうございました」と呟く静かな倉本氏の声を、静かな拍手が包む。 ふと、テーブルに目をやればカルアミルクのグラスには、氷の溶けた透明な水の層が、ミルクに蓋をするように浮いていた。 氷が角を無くして、まんまるく揺れていた。

今回のライブで気づいたこと。
倉本美津留の歌は倉本美津留だからこそ、いい、ということ。 歌詞だけでも、曲だけでも、声だけでもなくて、全部が一緒になって初めて、そこに世界が生まれる。
本当に、全部が運命づけられていたパズルピースのように、しっくりと。 そして、与えられた世界を最後に形創るピースは、聴き手。 どんな音楽だってそうかも知れないが、最後は聴く側に委ねられているのだと思う。

唄い手の世界を、どこまで感じられるか、共鳴できるか。 音楽というのは、本来そういうものではなかっただろうか。 使い捨てられる音楽が増える中で、本物に出逢えるライブはここにある。 アーティスト、芸術家、創造する人。
「放送作家 倉本美津留」は、テレビで感じられる。ならば「アーティスト 倉本美津留」を、ライブで感じてみてはどうだろうか。

「ありがとう」と言えるアーティストに最近出逢ったことが無い人達へ。

----------------------------------

BACK

Copyright (c) 1998 Fuji Television Network Inc. All Rights Reserved.