REPORT
視聴者の皆さんが送ってくれた収録レポート!

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タシロアヤさんの
倉本美津留ライヴレポレポート
(98/08/25;代々木公園 野外音楽堂)

19980825@代々木公園 野外音楽堂 倉本美津留ライブレポ

下弦の月が沈んでいく。
夕闇の向こう側に消えていく。
薄く、薄く、刃のような澄んだ輝きは、私達に星空を残して消えていく。
さようなら、いってらっしゃい。
ワタシ達はこれから素敵なひとときを過ごしにいってきます。
風が時折強く吹いて、真昼の空気を押し流していった。
夜が来る。夜がやってくる。
待ち望んでいた時が、近づいてくる。
代々木公園 野外音楽堂。
緑の中に開かれた空間は、その時一つの大きな幻に似ていた。
風が運ぶ夜。月がくれた星。
神様のご褒美。
倉本美津留の歌が、はじまる。

細かく降った俄雨もあがって、上々の雰囲気。
何度と無く倉本氏のライブに行かせていただいているが、こんなにも彼が遠かったのは初めてだった。
ステージが高くて、一番前の席でもMCの時の表情が上手く読みとれない。
それだったら、と視覚を放り出して、聴覚を研ぎ澄ました。
目を閉じて、最初から続けざまに演奏される曲達に耳を傾けた。
倉本氏の「ダリダダ」という曲の中でこんな歌詞がある。
“瞳閉じて 見つめてみる 耳を塞ぎ 聴いてみる”
ワタシはそれを体感した。
音が広がっていくのが分かった。
夜色の空気が揺れ、空に向かって全ての音がやわらかく放たれては融けていく。
見える、聴こえる。
音の形が、空間の雰囲気が。
「みんなで嬉しくなりましょう!」
そう言って、倉本氏は「しやわせ」を唄った。
かしこくなりたい、かしこくなりたくない。
唄いながら、ワタシは嬉しくなっていた。
解放されていく音の一部に自分が居ることを自覚して、ワタシはとてもしやわせだった。
きっと忘れないだろう。
「しやわせ」のオープニング。
倉本氏がギターをざん!と弾き鳴らした瞬間、強い風が一気に辺りを駆け抜けて、木々をさざめかせたあの偶然を。
背筋が震えた。
ふわり、ざわり、遠く、近く、人間、自然、音、沈黙、ぞくり。
ああ、もう、これはなんだろう?
怖いぐらい心地いい。
全部、音楽。
阻むモノも、拒むモノも、壊すモノも何も無い。
ありがとう。
そう誰かに言いたくて仕方なかった。誰かに伝えたかった。
幻のようなこの時間を生み出した全てのチカラに、ありがとう。
伝えたくて、伝えられなくて、ただもどかしいくらいにワタシはしやわせだった。
音楽を聴く、ということの気持ちよさ。
それを改めて思い知らされるライブだった。

どんどんどんどん、歌が溢れてくる。
新曲「るるるるる」は文句無しの出来映え。
「ドラゴンフライ」も「海へ倣へ」も「ひらめき」も「ほころび」も「壜(びん)」も
「それではみなさんさようなら」も「えこひいき」も、とにかく何もかも。
160人の観客を前にして、倉本氏の歌声が響く。
ドラムの徳田氏、キーボードの長谷川氏の音もたまらなく心臓に響く。
ライブを重ねる毎に観客が増え、曲が増え、音が増え、そして倉本美津留が近くなる。
確かに表情が見えなくなってみたり、ステージが大きくなってみたり、そういう距離感は否めない。
けれど、別の次元で倉本美津留は確実にワタシ達に近づいてきているのだ。
彼の音楽が、確実に迫ってきている。
アーティスト・倉本美津留が明確な形を帯びて、ステージに現れる。
遠く、高い、ステージの上。
見上げながら、思う。
あの場所こそが、倉本美津留の本当の居場所なのかも知れないと。
放送作家・倉本美津留とアーティスト・倉本美津留。
今まで見えなかったそれぞれの未来が一つになって、微かに目の前をちらついたような。
そんな気がしてやまなかった。

「すすめ」「C幼笛」。
今回もやはりこの歌達が、ワタシの心に殴り込みをかけてきた。
泣かされた。
今の、あるがままの自分自身。
それから。
今日、此処で倉本氏の歌を聴くために積み重ねられた偶然と必然の数々。
その全てに対する想いが、この二曲に融けて流れていった。
涙が止まらなかった。何処へも行けなかった。
身動きもできずに、ただ。
ただ、ワタシは泣くことしかできなかった。
歌に、包まれたままで。

アンコールの「るるるるる」が終わってしまえば、一気に会場の撤収が始まる。
椅子が無くなって、ライトが消えて、跡形も無くなって。
残ったのは、風と星と闇と緑。
そして多分、散りながら帰っていく160人分のしやわせ。

ライブに来てみてください。
倉本美津留の歌は、本物です。
倉本美津留の歌は、おもしろいんです。
ライブに来てみてください。
ここまでこの文章を読んでくれたアナタだからこそ。
どうぞ、倉本美津留を、聴きにきてください。

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